東京農業大学 応用生物科学部
食品安全健康学科
教授
食品安全健康学科
教授
農学博士
中山 勉 氏
東京大学農学部農芸化学科を卒業後、大学院へ進学。東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。長年にわたって、植物性食品成分(ポリフェノール)と生体分子(リン脂質膜)との分子間相互作用を研究。
味覚とは
食べ物のおいしさには、味、匂い、歯ざわり、温度など、様々な要素が寄与しています。中でも味に関する感覚(味覚)はその食品に含まれる成分の種類や量を推し測るという重要な働きがあります。私たちの舌の表面には、味蕾という味を感じる細胞(味細胞)の集まった組織があり、甘味、苦味、塩味、酸味、うま味などを感じることができます。甘味はカロリー源となる糖を、苦味は体に危害を与える可能性がある物質を、塩味は体が必要とする塩分を、酸味は食べ物が腐敗した兆候を、うま味はアミノ酸や核酸などのタンパク質や遺伝子の構成成分を感じるために、それぞれ発達してきたと考えられています。以上の5種類の味を基本五味と呼んでおり、それぞれに対する味覚受容体が味細胞に発現しています。これら以外の辛味や渋味などは補助味として位置づけられており、辛味は痛覚受容体を通じて感じる刺激です。一方、渋味は英語ではastringency(収斂味(しゅうれんみ))といい、その発現機構は基本五味や辛味とはまったく異なり、受容体の代わりに物理的な機構が働いているといわれています。
渋味の発現機構
渋味を示す食品としては、緑茶、紅茶、ココア、赤ワイン、渋柿などがあります。いずれもカテキン類、テアフラビン類、プロアントシアニジン類や、カテキン類が縮合した多量体などのポリフェノールを含んでいます。ポリフェノールはタンパク質や脂質(膜)などの生体物質と結合しやすく、紅茶の渋味については以下のようなポリフェノールが関わる発現機構が提唱されています。(図中の“味孔”は味蕾を上から見たときの構造を表しています)。
紅茶には、緑茶にも多く含まれるカテキン類、紅茶特有の赤色色素であるテアフラビン類、さらにそれらが複雑に酸化重合したテアルビジン類などのポリフェノールが含まれており、すべてタンパク質や脂質膜につきやすい特徴があります。紅茶の機能として、(4)脂肪やコレステロールの吸収阻害なども期待されていますが、これらもポリフェノールがリン脂質や脂質膜に作用することによる現象である可能性があります。
(図中の番号は上記の(1)~(4)に対応していますが、まだ仮説であることと、相対的な縮尺が必ずしも実際を反映していないことにご留意下さい)
(1) ポリフェノールが口腔内にある唾液タンパク質と結合し、その結果、生成した凝集物が舌表面の細胞膜に接触し、その感覚が神経系を伝わって脳に到達する。
(2) ポリフェノールが舌表面の細胞膜に到達した後、それをきっかけとして細胞膜に存在するタンパク質が凝集し、その感覚が神経系を伝わって脳に到達する。
(3) ポリフェノールが舌表面の細胞膜に結合すると細胞膜の構造が変化し、その感覚が神経系を伝わって脳に到達する。
紅茶には、緑茶にも多く含まれるカテキン類、紅茶特有の赤色色素であるテアフラビン類、さらにそれらが複雑に酸化重合したテアルビジン類などのポリフェノールが含まれており、すべてタンパク質や脂質膜につきやすい特徴があります。紅茶の機能として、(4)脂肪やコレステロールの吸収阻害なども期待されていますが、これらもポリフェノールがリン脂質や脂質膜に作用することによる現象である可能性があります。
(図中の番号は上記の(1)~(4)に対応していますが、まだ仮説であることと、相対的な縮尺が必ずしも実際を反映していないことにご留意下さい)
渋味に影響する因子
紅茶の渋味は以下のような因子により強弱が変化します。
産地:スリランカのハイグロウン紅茶(高地産)やインドのアッサム紅茶はポリフェノール量が多いので渋味が強く、インドネシア紅茶、南インド産ニルギリ紅茶、そして中国のキーモン紅茶は軽い味わいで渋味が少ない傾向があります。ただし同じ産地でも、生産時期(シーズン)、製法(オーソドックス製法かCTC製法か)、茶葉のグレード(茶葉のサイズ、大きさ)によって渋味の強さが異なってきます。
浸漬時間、浸漬温度、水(軟水か硬水):長い浸漬時間、高い温度(ポットとお湯)、軟水の場合など、様々な要因により渋味は強くなります。
葉の量、撹拌条件:茶葉の量が増えれば渋くなるのは当然ですが、静置しないでスプーンなどで撹拌すると渋味が強くなります。透明なポットに茶葉を入れ、沸かしたての湯を注ぐと“ジャンピング”と呼ばれる上下方向の自然な撹拌がおこり理想的な風味(渋味)の紅茶ができると言われています。
他の食品成分:例えばミルクは渋味を激減させます。ポリフェノールが乳タンパク質と結合するためと考えられています。
紅茶のテアフラビン類には様々な機能が期待されて活発に研究が行われています。これらの機能は渋味と関係している可能性があり、その点では渋味の強い紅茶を飲むことが健康によいのかもしれません。
浸漬時間、浸漬温度、水(軟水か硬水):長い浸漬時間、高い温度(ポットとお湯)、軟水の場合など、様々な要因により渋味は強くなります。
葉の量、撹拌条件:茶葉の量が増えれば渋くなるのは当然ですが、静置しないでスプーンなどで撹拌すると渋味が強くなります。透明なポットに茶葉を入れ、沸かしたての湯を注ぐと“ジャンピング”と呼ばれる上下方向の自然な撹拌がおこり理想的な風味(渋味)の紅茶ができると言われています。
他の食品成分:例えばミルクは渋味を激減させます。ポリフェノールが乳タンパク質と結合するためと考えられています。
紅茶のテアフラビン類には様々な機能が期待されて活発に研究が行われています。これらの機能は渋味と関係している可能性があり、その点では渋味の強い紅茶を飲むことが健康によいのかもしれません。